≡ヴァニティケース≡
「お、お父さんは田舎者なんかじゃない! 私を大切に育ててくれ……」
「し·か·し·だ。娘が二人居たことで、結果的には都合がよくなった」
石田が美鈴ミスズの言葉を遮った。彼は他人の事情など意に介してはいないようだ。患者ではなく患部を診る。それも医者としての典型なのだろうか。
「世間から認知されていないクローンを作るということは、云わば犯罪に等しい。それは法整備が整っていない当時でもだ。全く同じDNAを持つ娘が二人いる事実こそが証拠になるのだから、私はそれをネタに鈴奈さんに結婚を迫ったんだ。彼女は今も美しくいらっしゃるが、昔もあの写真の通り、眩いばかりの美人だったからね」