≡ヴァニティケース≡
石田はもはや正気ではなかった。話すごとに興奮していく彼の額には赤黒い血管が浮き上がり、その口角にはベットリと泡が付いている。
「これのどこが平等だ。友? 愛? ふざけるな! 俺はそいつらが金で裏切る様を嫌と言うほど見てきた。命だってそうだ。金が無いばかりに医者に掛かるのが遅れ、それが原因で死んで行く人間がこの国に何人いると思う。なあ、美鈴君。所詮この世は金が全てなんだよ。金さえ有れば最高の治療だって受けられる。一回に何百万もする先進医療を、一体どうやって貧乏人が受けられると言うんだ」
美鈴には、彼の過去になにが有ったのかは解らなかった。代わりに、彼が金を愛し、そしてそれと同じ位に憎んでもいることが理解出来た。
「……」
「そうそう、鈴奈さんの話だったね。脅したおかげで結婚するのは断られたんだが、しかし研究費用は出してくれることになった。まあほら、彼女にも負い目があったんだろう。だが、やはりそんなはした金ではつまらない。俺はもっともっと自分の力を世間に示したかった。裏切った同僚や後輩を見返したかった。金がないばかりに不遇だった人生の前半を取り返したかった。だから揺さぶりを掛ける意味で美鈴ミスズくんを京都に呼び寄せ、美鈴ミレイお嬢さんに真相を話したんだ」