≡ヴァニティケース≡
「それで鈴奈さんはどうしたの?」
「彼女はもう正常な精神状態ではない。今日からは鈴奈さんの代行で、ミレイお嬢さんが伊藤家の主だ。だからもう鈴奈さんを脅迫する必要もないし、当然ほら、ミスズくんにも存在価値は無いという訳だ」
石田は耳まで裂けそうな程口角を持ち上げて笑っている。その顔は、ひと目見ただけで1ダースほどの人間に災いをもたらしそうだった。
「待って! だからって、どうして私が殺されなきゃいけないの!?」
ミスズの心の発火点はとうに過ぎていた。縛られた椅子をガタガタと揺らし、それでも足りないとばかりに手足をバタバタさせる。拘束する紐が体に食い込み、その被虐心が余計に怒りを増幅させる。