≡ヴァニティケース≡


「いいや、違う。殺すんじゃない。ミレイお嬢さんの中で生き続けるんだ。なぁ、お嬢さん」


 そう言って石田がミレイに視線を移した。


「ふん!」


 ミレイが緩やかに体を揺らし、美鈴ミスズに近付いてくる。心の歪みとは裏腹に、姿ばかりは優美で繊細だ。女の弱さと禍々しさが、彼女の中で見事に同居している。


「うちの心臓は、あんまり芳しくないらしいんですわ。ほいで、あんたはんの心臓を貰いますねん」


「冗談じゃないわ! 誰がアンタなんかに! 誰が下らない復讐の為だけに命を投げ出すって言うのよ!」


「み·す·ず·君! 散々世話になった私に、そんな態度が取れる【強心臓】だ。さぞお嬢さんの役に立ってくれるだろうさ。まあ良かったじゃないか。ほら、役立たずのまま終わらずに済む。はははっ」



< 324 / 335 >

この作品をシェア

pagetop