≡ヴァニティケース≡


「この鬼! 悪魔! 守銭奴!」


「何とでも言いたまえ。だが、これが金の力だ。ミスズくん、恨むなら自らの生い立ちを恨むんだな。そう、あの頃の私のように」


「いやっ! やめて! 石田先生!」


「大丈夫、毒薬ではないよ。君の心臓が必要なんだからね。それに全ては眠っている間に済むから、苦しまないで逝けるよ。これが私の最後の温情だ」


 石田はそう言って目配せをした。すぐに塚田がミスズの二の腕に注射針を向ける。これから感じる微かな痛みを最後に、美鈴はこの世から消えて無くなるのだ。


「やっ、やめて……いや……」


 ……チクリ



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