≡ヴァニティケース≡


 瞳を貫きそうに眩しい太陽が、古都の家並みを輝かせている。花の香りを含んだ優しい南風が、薄い雲を山際へと流していく。小学生が奏でる縦笛の音が、小路を過ぎて大通りへと出て行った。


 瞼に温もりを感じる。指先もじんわりと温かい。夢と現実の狭間は、どうしていつもこれ程まで甘美なのだろう。


「……お嬢様」


 おぼろげな意識の外から誰かが呼んでいる。


「ん……」


「お目覚めになられましたか?」


「え……と……」


「ミレイお嬢様……」


「誰?」


 ここは病室。まだ光に慣れていない目に、真っ白な病室の壁が突き刺さる。


「良かった。やっと目を覚まされましたね」


 逆光になっていて、こちらからは男の顔が見えない。全ては無事に終わったのだろうか。こうして病室に寝かされているのだから、まず間違いはない。



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