≡ヴァニティケース≡
「でも、最初は大変だったでしょう? 悪い人を演じなきゃいけないんですものねえ」
意地悪っぽくそう言ってみた。彼がどう反応するか見たかった。
「いえいえ。その節はまっこと失礼いたしました。穴がおましたら飛び込んでますわ、ほんまに……」
「お仕事ですもの。仕方ありませんわ。ねえ先輩」
その女、伊藤美鈴ミレイはニッコリ笑って蒔田を労った。美しい顔立ちに美しい仕草、同じ顔。よほど親しい者でなければ彼女をミレイだと信じて疑いはしないだろう。
「先輩はもう堪忍しとくんなはれ。もう、ほんま堪忍ですわあ」
「ふふふ。でも、これでもうなんの心配も要らないわね。お母様の事は残念だったけど、亡くなってしまったものは仕方ないわ。これからは財務の担当、しっかりお願いしましたよ」