≡ヴァニティケース≡

　

「早く私を京都から出て行かせたかったんでしょうけど、意外と手強かったでしょ？　焦って隙も出来るわよね。蒔田セ･ン･パ･イ」


「もう、それは勘弁しとくれやす。でもそうでんな。もっと簡単に辞めてくれるもんやと思うとりました。写真も気味悪がらせる為のもんやったんですが、逆効果になってもうて……」


　ミスズが休職願いを伝えた時、蒔田から｢後日詳しく話をしたい｣と呼び出され、話を聞いた。それは彼女の根幹を揺るがす程の驚愕をもたらしたが、ある確信と共にとてつもない計画を思い付いた。柏木はともかく、蒔田と塚田さえ味方に付けられればこちらにも勝機は有ると。だから拐われる前日、蒔田を通じて、石田よりも先に塚田を雇う手配をして貰った。石田とミレイならきっと塚田を雇うと、そう考えたからだ。


　所詮、非合法な依頼など早いもの勝ちだ。ならば、仮に鈴奈からの依頼を取り下げて再依頼をしたのが石田であっても、先口であった蒔田から新たな指示がくれば、きっと塚田はそれに従うと踏んだのだ。