≡ヴァニティケース≡


 勿論不安は有った。蒔田を通じて出したミスズの指示が、「石田に雇われたふりをして私を拐いなさい。そののちにミレイと石田を始末しなさい」だったからだ。


 あとは蒔田がうまくやってくれる手筈だった。ミスズとミレイを入れ替えて、ミスズが伊藤家の当主となるよう準備を整えてもらう予定でいた。無論、蒔田に手抜かりなどある筈もなく、クローンであるミスズの容姿にも不備はない。ネックとなるのは塚田たちの忠誠心だけだった。もし、彼らが真に石田側に回っていたならば、即ちミスズの破滅を意味するからだ。


 しかし、どうやら計画は思惑どおりに進んだらしい。


 ミスズが睡眠薬で眠っている間に、塚田たちはミレイとミスズを入れ替え、石田に心臓を摘出されたミレイは死んだ。その後移植手術の用意をしていた石田を始末したのだろう。病院で目覚めたのがミスズで、その傍らに蒔田がいたのだから、それは間違いない。



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