≡ヴァニティケース≡

「もう一年近く前になるのね」


 隆二が残して行った物はほとんど処分した美鈴だったが、ゴールドのチェーンだけはさすがに捨て切れず、いつまでも宝石箱に入ったままだった。


「別にヨリを戻そうだなんて思ってないんだから」


 自分に言い聞かせるように呟くと、ポケットに入れた冷たいチェーンの感触を握り締め、ぼんやりとロータリーを見回してみた。


 すると、そこに有った筈のプールバーが、インターネット喫茶に変わっているではないか。


「あれ?」


 念のためそこの店員に移転先を尋ねてみたが、アルバイト店員にそこまでわかるはずもない。「さあ?」と、気のない返事が返ってきただけだった。



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