≡ヴァニティケース≡

「でも、これで良かったのかも知れない」


 踏ん切りが付くとは、こう言うことか。しかし、代わりに不思議と心は晴れない。愚かだったあの時の自分と向き合う為には、もうひとつ何かが必要である気がした。


「えいっ」


 すると美鈴は、握り締めたままだったゴールドのチェーンをゴミかごに放り投げる。ゴトンと重量感の有る音を立てて、それはゴミの中に埋もれてしまった。


 他に方法がなかった訳ではないが、女は常に難解な理由と安易な手段を好む。【愛・憎】のアンビバレンスを解消するには、とりわけ解りやすい儀式が必要だったのだ。


「ああ、スッキリした!」


 美鈴はひとつ伸びをすると晴れやかに顔を上げ、その場を後にした。


~行き詰まった日々~


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