≡ヴァニティケース≡
────生理的に無理……。彼が居なければ良い職場なんだけど────
「すみません。以後気を付けます」
しかし美鈴は怒りを覚られないよう従順な後輩を装い、改めて蒔田に頭を下げた。ここで彼の挑発に乗ってしまっては、折角目を掛けてくれている石田の顔に泥を塗ることになってしまう。
「ほんまにきょうびのおなごは……」
自分の言いたいことだけを言って、蒔田はクルリと踵を返した。
常識的に考えてみれば医師と事務員では立場の違いは明らかだ。石田医師の後ろ楯が有るならば、単なる事務員の蒔田等、取るに足らない存在とも言える。
しかし、組織とは肩書きだけで全てが計れるほど単純なものではない。やはり美鈴は蒔田の立場を無視することは出来ないのだ。