≡ヴァニティケース≡
それから数日後のこと。石田が姿を見せた時、美鈴は駅前の広場に居た。
この数日は空気も緩み、日差しが心地良くなった。地面を窺うと、青い若草が挙って背伸びをしている。年毎に同じ花を咲かせる草花達は、生命の営みを顕著に感じさせてくれる、美鈴が好きな物の一つだった。
「石田先生、本日は無理を申し上げましてすみません」
「美鈴くん。まあほら、そう何度も謝らなくたっていいよ。こんな綺麗な娘さんとデートだなんて、本当ならお金を払わなくちゃいけないところなんだから。ははは」
石田はそう言ってから、内ポケットの長財布を取り出す仕草をして笑った。相変わらず人懐こそうな笑顔だ。
「お金なんてそんな……解りました。もう謝るのはよしますね」
「そうそう。素直に甘えて貰った方が私も気を遣わないで済む。それでは行こうか」