≡ヴァニティケース≡
「ここ、造りが古いから収納が少ないのよ。こんな大荷物、片付けようがないじゃない。まあ、寮扱いで家賃が格安だから文句も言えないんだけど……」
形だけリフォーム済みの物件ではあったが、実際にはかなり古い。懐具合との相談でここにするしかなかった美鈴は、愚痴を言いつつも押入れを開け放った。
すると。
「なぁ……に? これ」
ふと、天袋の中に水色掛かった小箱がある事に気が付いた。相当古い物だったが、手に取った重みからはその品物の高級感が伝わってくる。
「随分凝った装飾だわ。こういうの、ロココ調って言うんだっけ……」
浮き彫りが持ち手にまで精緻に施されている。目を細めて視線を送ってみると、艶やかな表面が歳月を経てその色合いを濃くしていた。
「……高そうなヴァニティケース。きっと前の住人が忘れて行ったんだわ」
振ればゴトンガチャンと、硬質な音が響いてくる。ヴァニティケースなのだから当然化粧品が入っているのだろうが、正直美鈴は戸惑っていた。