≡ヴァニティケース≡
デニムのパンツにカジュアルなジャケットを羽織った彼は、病院で会う時よりもかなり若く見える。清潔感に溢れた着こなしも、人柄を表しているようで好感が持てた。
概ね男は、青年期を過ぎると服装に気を使わなくなるか、あるいは極端な趣味に走るかのどちらかである。かと言って、上から下までファッション誌に載っているようなスタイルでも見苦しい。
その辺の兼ね合いにおいて、普段着の石田は実にバランスが取れている。一緒に歩いても恥ずかしくないとは失礼な物言いだが、彼の格好は充分過ぎる程に小洒落ていた。
「それで、その神社には一体どんな用事が有るんだい?」
実を言えば美鈴は、入居の際にヴァニティケースから出てきた例のモノクロ写真を捨てられずにいた。それが本当に悪戯ならば問題はないが、どう考えを巡らせてみても写真が出来過ぎている。
第一、そのようなことをして得をする者の存在にも心当たりはない。では悪戯でなかったとすれば、自分と似過ぎている写真の女性は一体何者だろう。
写真の傷み具合から判断して、撮影された時期はおおよそ20年ほど前だ。裏書き通りである。当然、写っているのも美鈴ではない。