≡ヴァニティケース≡
「ああ、これは……多分あそこだ。美鈴君も写っているね」
石田は境内をひと巡り見渡し、写真と同一と思われる場所を指差し目を細めている。
他人から見ても、やはり女性と美鈴は瓜二つであるらしい。写真は古く黄色みを帯びていたが、同じ顔であるという先入観がそう見せているのかも知れない。
「この場所……写真の通り、だわ」
「実物も綺麗だけど、写真写りも素晴らしいね」
「……」
同じ物を見ている筈のふたりの会話は、しかし噛み合わない。
境内にそびえる杉の大木が、地面に木漏れ日を落として揺れている。不意に枝から離れた硬い葉が零れ落ちてきた。正午を過ぎたあたりから、京都の街に緩やかな風が立ち始めたらしい。