≡ヴァニティケース≡

「お二人は観光で来はったんですやろか。東京の方でっしゃろ?」


「いえ、住んでいるのは城壁の外ですが、これでも京都市民です。私はこちらに来て3年でしょうか。しかし、彼女は最近越してきたばかりです。まあそのせいか、京都の礼儀に不勉強で申し訳ない」


 宮司の視線に訝しげな陰りを感じた石田が、つい謝罪めいた言葉を口にしている。堪らずに美鈴が付け加えた。


「私の部屋から出てきた写真にこちらの神社が写っていたので、今日は少しでもお話しを伺いたくて参りました」


 美鈴から渡された写真を見て合点が入ったのだろう。宮司は大きく頷いてから答えた。


「そうですかぁ、なるほど。これは確かにうちの境内ですわなぁ。でも丁度良かった。今は時代の流れに合わせて、参拝記録をデータ化した所ですよってに。どうです? よかったら調べていかはりますか?」


 抱かれていた疑念は払拭出来たようだ。宮司の声は明らかにトーンが二段階は高くなっている。



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