≡ヴァニティケース≡
石田は美鈴に耳打ちした。
「私たちが不倫カップルじゃないと解って貰えたようだな」
「先生。そんなことを気にしてらっしゃったんですか、あははは」
笑ったことで、不意に美鈴の膝から力が抜けてしまった。緊張も有っただろうし、不安も有ったのだろう。フラフラと壁にもたれ掛かる彼女の肩を石田が抱き止めて言った。
「大丈夫かい?」
「すみません。ありがとうございます」
「いいんだ。まあほら、役得ってやつだよ」
石田に支えて貰いながら、更に奥の部屋へと案内される。古い都の名残りを残す廊下に、ふたつの影が薄く伸びていた。