≡ヴァニティケース≡
化粧品は女の武器だ。ならばヴァニティケースは武具を入れる為のつづらと言ってもいい。他人が使っていた物をそのまま使うのも憚られる。
「どうしよう、処分に困るわ……」
美鈴は曖昧に呟いてから、蓋を開けてみた。すると埃が溜まったそこには、数本の空き化粧瓶と古びたモノクロ写真が一枚入っている。だが、写真を手に取った瞬間、誰かの悪戯かと思って眉をひそめた。
「……え、何?」
美鈴が訝しく思ったのも無理はない。今、手にしているのは明らかに20年は経過しているであろう黄ばんだ写真だ。そこに何故か彼女自身の姿が写っていたのだから。
「私?」
裏には走り書きの文字で一行、1986年3月15日 京都月読ツクヨミ神社にて、とだけ記されている。25年前の京都に、美鈴とよく似た女性が居たのだろうか? 今はそう考えるより他にない。だが、自分と似過ぎている女の微笑みは、美鈴の背筋に冷たいものを走らせた。