≡ヴァニティケース≡
「こちらですわ。今打ち込んでみますよってに。15日と……ああ、この方ですやろか」
その日は平日であったらしく、特に参拝者は少なかった。女性では安産祈願に訪れた【伊藤鈴奈】という人物だけが記録に残っていたようだ。彼女が写真の人物なのだろうか。
「美鈴くん。いきなり真相に近付いたじゃないか」
パソコンのモニターを覗き込んでいた石田は、美鈴の肩をポンと叩いて微笑んでいる。この情報がすなわち真相であるかは定かでなくとも、調べる切っ掛けになるのは確かだ。
─────手懸かりが有って良かった─────
新居に残されていたヴァニティケース。その中にあった25年前の写真。美鈴そっくりの女性。彼女が今も生きているのなら、どうにかして探し出したい。明確な理由はないけれど、一度は会ってみたい。会って、似過ぎている訳を訊ねてみたい。美鈴はそう思っていた。
「先生、ありがとうございました。この名前から私なりに彼女を調べてみます」