≡ヴァニティケース≡
「よしっ。覚悟は出来たわよ」
自らを勇気付けてから、新聞記事の検索が出来るパソコンへと席を移した。検索自体は入力とクリックをひとつか、ふたつだ。覚悟さえ決めれば時間はそれ程掛からない。
だがポインターの砂時計が消えると、美鈴は思わず小さい叫び声を上げてしまった。
「うわっ、何これ」
そこに映し出されたのは、今から23年前に起きたらしい強盗殺人事件についてだった。
「家族がみんな殺されて、伊藤鈴奈さんだけが生き残ったなんて。ああ、可哀想に娘さん。折角生まれてきた赤ちゃんも殺されてしまったんだわ」
まさか写真を撮った2年後に、彼女をそんな不幸が襲うなど誰が予想出来ただろう。
「可哀想……」
改めて写真の彼女……伊藤鈴奈を凝視した美鈴は、そのあくまでも美しい微笑みからは計り知れない悲惨な運命を思い、過去の出来事とはいえいたたまれなくなった。