≡ヴァニティケース≡
これが影響したのか、しないのか。果たして伊藤家に嫁いで来た、人も羨む資産家の夫人である筈の鈴音は、しかし度々流産を繰り返し、いつまでも子供を産むことが出来なかった。
「どうか堪忍なさって下さい……。うちの所為で」
「そないなこと気にせんでもええ。子供だけが夫婦の幸福やないやろ」
しかし夫婦が子供を諦め掛けた頃になって鈴音は懐妊。これまで以上に経過を気遣ったのが幸いして、ようやく第1子の鈴奈が生まれた。
以降、後継ぎをそれほど切実に意識していなかった博嗣は、妻の身体を慮オモンバカって嫡男を望まないことに決めた。一人娘を授かっただけでも充分幸せだったからだ。