≡ヴァニティケース≡
だが、前述した通り、財産と幸福とは同居しづらいものだ。
そのご多分に漏れず、やっと授かった一人娘である鈴奈は生来身体が弱かった。彼女が幼い頃は、1年に2、3度は医者にかかる病に臥せっていた。万能薬の裏書きに記載されている病気は、のきなみ経験しているのではなかったか。それを見ていた周囲の者も、決して口には出さなかったが或る程度の覚悟をしていたふしがある。
そんな病弱だった鈴奈を、彼女の両親がことのほか可愛がったことは言うまでもない。周囲の愛を一身に受けてすくすくと育ち、何不自由なく暮らすうちに鈴奈は、いつしか小柄、色白の美貌を兼ね備えた儚げな令嬢へと成長していった。
誰もが振り向く高嶺の花と、そう表現しては大袈裟だろうか。それでも鈴奈の美貌が古街で話題になった時期も有った筈だ。