≡ヴァニティケース≡

─────ミレイ、ミレイちゃん。貴方、美治さん……─────


 一体どの位時間が経ったのだろう。遠去かっていた鈴奈の意識が、少しずつ明瞭になってきた。


「……鈴奈、鈴奈」


 すると意識の外から美治の声が聞こえてくる。低く、落ち着いた夫の声に鈴奈は安堵させられた。


─────良かった。美治はんは無事やった。ほしたらミレイも無事に決もぉとる─────


 安堵と同時に巡り始めた神経が、体をゆっくりと動かし始める。


「ぅ……ぁ……よ、美治はん、貴方……」


 やっとの思いで瞼を開けると、鈴奈の髪を手で梳く仕草も優しく、美治が心配そうに覗き込んでいるのが見えた。


「目が醒めたんだね。気分はどうだい?」


─────でも、ここはどこやろう。うちはあれからどないなった。いや、それよりもミレイは無事やったんやろか。あの子を看ていた筈の中山は……せや、中山やないの!─────


「貴方、中山が……倒れていて……首が、首が……」


 途端、瞼にあの凄惨な場面が再生される。剰りの衝撃に言葉を上手く繋げなくなっていた。



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