≡ヴァニティケース≡

「わややて……そないな……」


 うろたえる鈴奈の傍らで、刑事は淡々と状況の説明を始めた。その冷酷に見える態度も、彼らの職業柄仕方がないのかも知れない。


 だが、それに依れば犠牲者は父親である博嗣夫妻、夫の美治、中山以下4名の使用人と、およそこの屋敷にいた全員である事が判明した。


「……ほならミレイは? うちの赤ちゃんはどないなってますの!」


 そう鈴奈が問い質した刹那、別の若い刑事が息を切らせて走り込んで来る。


「篠崎警部。赤ちゃんが……生存者でおます! たった今救急搬送されました」


「良かった! ミレイは助かったんどすな」


 娘が生存していたと聞いて、鈴奈は全身の力が抜ける思いだった。刑事に縋り付き、泣き崩れた。家族を一度に失った絶望感は拭い去れないが、最愛の我が子だけでも助かってくれたなら、まだ生きていく意味も見いだせるというものだ。



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