≡ヴァニティケース≡

 その願いが届いたのか、暫くして赤いランプが消え、ストレッチャーに乗せられた我が子が手術室から出てきた。


「ミレイ! ミレイちゃん!」


「ICUに移しますよって、お話はせんせから聞かはって下さい」


 運ばれて行くミレイと、それを取り巻く看護師達。様子も酷く慌ただしい。血の滲んだ包帯、腕に足にと薬剤を注入する管。テープで止められた酸素吸入器で顔も良く見えない。手術は上手くいったのだろうかと、鈴奈の心配は尽きなかった。


 だが、ストレッチャーを追う彼女を置き去りにして、無情にもミレイは集中治療室へと消えて行く。


「ミレイちゃん!」


 叫ぶ鈴奈の前に執刀医が現れたのは、それから5分後の事だ。


「奥さん。手術は済みました」


「せんせ、ミレイは……うちの娘は!」


「八方手ぇ尽くして、やれる事は全部やらして貰いました」


「そ、それで?」


「お嬢はんが運ばれて来はった時は、そりゃもう酷い酷い有り様どした。後は経過を見んことには……」


 医師は疲労困憊といった様子で、ぽつりぽつりと説明する。言葉の調子からもミレイの容態が良くないのは明らかだった。



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