≡ヴァニティケース≡
しかし、剰りに呆気なくその時は訪れた。規則的に拍動を伝えていた電子音が、深夜には長単音となって虚しく病室に響き渡ったのだ。
「ミレイ……」
「零時55分、ご臨終でおす」
冷酷な瞬間とは突如として訪れる。しかし医師が言った言葉の重みを、額面通り容易く受け入れられる者は少ない。
だが、一体どういうわけか、鈴奈は口元に笑みを湛えていた。ショックで前後不覚に陥ったのだろうか。まだ温かい愛児の額をいとおしそうに撫でている。
「ミレイちゃん、大丈夫。もう少しの辛抱やから……うちがミレイちゃんを死なせへんからね」
そしてそうミレイに囁き掛けて微笑む鈴奈の姿は、さながら聖母のように神々しくさえあった。
〜白昼の惨劇〜