≡ヴァニティケース≡
それに今は資格の勉強にも励まなければならない時期だ。いつまでも蒔田に好き放題言わせている訳にもいかない。過去の事件に縛られている余裕など無いのだ。
……とは言うものの本当の所、美鈴は真実を知るのが怖かった。自らを納得させる為に表向きの理由をそう取り繕ってまでして、実際は自分と似過ぎている鈴奈の過酷な運命に同調するのを避けていた。
真実を突き詰めようとする情熱は、時に知ってはいけない過去までも暴いてしまう事が有る。深入りして後悔する前に手を退くのが賢い生き方だ、と自らに言い聞かせていたのかも知れない。
「新人! 戻ってけーへん思たら、またこないな所でたそがれてからに。ちゃっちゃと済ましたってぇなぁ」
不意に背後から蒔田の怒声が飛んでくる。
「あっ、ああ、すいません。これと……これでよろしいですか?」
急いで取りなしてはみたものの、気掛かりな事が有っては日々の仕事にも身が入らない。こんなお粗末な美鈴の勤務態度もあって、蒔田の風当たりは以前にも増して強くなっていた。