≡ヴァニティケース≡
『どうした? 大丈夫かい?』
石田はドアの外から心配そうに呼び掛ける。男に恐怖させられたり安堵させられたりと、それもひとえに人格次第なのだと美鈴は思う。今後は【男】とひとくくりにするのは控えようとも思っていた。
彼女はへなへなとドアにもたれ掛かり、念のため周囲に怪しい人物が居ないかを石田に確かめて貰った。先刻の出来事を説明出来たのはそれからだ。
『なるほど、事情は飲み込めたよ。怖かっただろうと思う。……しかし美鈴くん』
「はい?」
『私はいつまでこうしていればいいのかな? そろそろご近所の目も気になってきたんだが……』
「ああっ!」
美鈴は飛び上がりガチャガチャと鍵を回してドアを開け、石田を招き入れた。実際、5cm程は飛んでいたかも知れない。
「すみません。折角いらして頂いたのに」
「はっはっはっ、さてはイイ男に訪ねて来られて緊張していたな? キンチョーは蚊取り線香だけにしておきなさい。はっはっはっ」