恋イチゴ
ところが倉橋は希祈より何枚も上手なようだ。
小さい頃からいじめっ子で、全く可愛くないガキだった倉橋が、こんな明らかに口が軽そうでアホな幼なじみに、そう簡単に口を開くわけがない。
「…寒い。もうチャイム鳴るから行こうぜ。」
倉橋は希祈の話をあっさり無視して歩きだした。
が、しかし…倉橋は小さい頃から要領が良くて、頭の回転が早くて…でも、どこか抜けている。
性格、というか、性質はその頃のまま、なにも変わっていなかったのだ。
希祈は、相変わらずわかりやすいなぁ、と、倉橋にバレないように、ククッと小さな声で笑った。
必死に平然を装う倉橋。
歩いて行く後ろ姿は…やっぱり不自然!
倉橋は、焦っていたり不安だったりするときに、
まるで競歩の選手のようなスピードで歩く。
…だめだ……
……楽しすぎる!!!
希祈は駆け足で、スタスタと校内を歩く倉橋の前に出ると、顔を覗き込みながら駄々をこねた。
「ねー!いいじゃん!見せてよー!」
倉橋の腕をつかんで、ぶんぶん振り回すと、倉橋は眉間にしわをよせて、希祈のほっぺたをぎゅーとつねった。
「おまえのクラスは3階だろー?」
倉橋のクラスは2階、希祈のクラスは3階。
本当は、倉橋のクラスまで着いて行って、絶対に相手を突き止めてやろう!と考えていた。
しかし、今日のライティングの授業で英訳があたることを思い出して断念。
途中の階段で別れた。
「いつか絶対見てやるからね!!!」
希祈は別れ際、倉橋に向かって、いーっとしかめっつらをした。
そしてすぐにくるっときびすを返すと、栗色の髪をサラサラとなびかせながら、階段を駆け上がって行った。
倉橋はふー…と大きく息を吐いて、手をヒラヒラと振った。
…本当は内心ホッとしながら。