恋イチゴ
「あ、なんか質問?それともやっぱり、バイトよす?」
職業柄なのか、店長は希祈に向かって早口言葉を言っているかのように話をする。
希祈は聞き取れず、"もう一回言ってください"と言うために、息を吸った。
すると、店長の黒いエプロンから、この店1番のこだわりであるコーヒーのほろ苦い香りがフワッと香った。
希祈はこの、何とも言えない大人な香りに一瞬で惹かれた。
お父さんが美味しいと言って毎朝欠かさず飲むブラックコーヒーとは、全く違う!
希祈は目をキラキラ輝かせた。
私、この匂い大好き!
そう思うが早く、店長に向かって声を発した。
「コーヒー!良い匂いですね!匂いっていうか、香りが。私、今一瞬で大好きになりました!店長さんが!」
思ったことをそのまますぐに口にしてしまうのは、友人にバカ正直と言われるだけある、希祈の癖である。
え、と店長の動きが一瞬止まった。
希祈がハッと気づいたときにはもう遅かった。
いつもニコニコしている店長が、珍しく自分のお腹を抱えて大爆笑していたのだ。