Distance‐マイナス5cm‐
「今日、叶チャンのお父さんから夕ご飯の支度頼まれてるから、一緒に買い物行こう?」
ちょっとふてくされているのが態度に出てしまい、叶チャンの顔を見れなかった。
「あぁ……分かった。ちょっと待ってろ」
そんなあたしの態度に気付いているのかいないのか、もしくは最初から気にしていないのか……
叶チャンは少し間を置いてから、そう言葉を落とした。
うん、とまだふてくされた態度で応えると、一旦教室に戻ろうとした叶チャンが振り返った。
「……悪かったな」
叶チャンは右手を伸ばし、あたしの頭を優しくポンポンってした。
「……えっ、ぁ、ううん……」
そう言って顔を上げたんだけど、あたしが顔を上げた頃には叶チャンはもう教室の中だった。
触れられた感触の残る頭に、自分の手を当ててみる。
やっぱり、叶チャンの大きくて優しい手とあたしの小さな手では、感触が違った。
あぁ……
それだけで顔がにやけちゃうなんて。
自分でも顔が赤くなっているのが分かった。
“えー、何で三崎サンと帰るわけぇ。意味分かんない”
幸せに浸っていると、何やら教室の中からさっきの女の子の声が聞こえてきた。
“悪ぃな、まぁそーゆう事だからまたの機会によろしく”
叶チャンの、軽くあしらう声も聞こえる。
“もう知らないから!”
女の子の捨て台詞と同時に、叶チャンが教室から出て来た。
「のぞみ行こうぜ」
「大丈夫なの?」
「は?」
何か女の子、怒ってたみたいだけど、あたしのせいだよね。
ど、どーしよ。
慰謝料とか払わなきゃダメ!?
「……大体おまえの考えてる事予想つくけどさ。下らない事ばっか考えてると置いてくぞ」
叶チャンは
はぁ……。と溜め息をついて先に行ってしまった。
だけど先に行く大きな背中から小さな声で
「お前のせいじゃないから気にすんな」
って、聞こえたような気がした。
それが聞き間違いだとしても嬉しくて
「ま、待ってぇ〜」
あたしは笑顔で追い掛けた。