Distance‐マイナス5cm‐


触られると、叶チャンの事を思い出してしまう。


唇の感触も、首筋に這われた舌の温かさも、震える声も、あの時の気持ちも……



誠は気付いてる。

あたしが触られたりする事を怖がってる事。

あの次の日、あたしは誠からのキスも、手を触れられる事さえも拒んでしまった。

震えながら拒むあたしに、誠は泣きそうな顔をしながら「大丈夫か?何かあった?」て聞いてくれた。

でも、あたしは何も話せなかった。

話しちゃいけないと思った。

きっと、話す日が来る事はない。





あたし、誠を苦しめてる。



そう思う度、あたしは別れた方がイイのかなとか考えたり、ずっと悩んできた。

でも別れる事はあたしの罪悪感からの逃げで、決して誠の為なんかじゃないから。

誠の為に、あたしは出来る事をしようと思った。


それは些細な事だけど、今は手を繋げるようになった。

手を繋ぎながら、笑えるようになった。


本当は、こんな事は当たり前の事なんだけど……。



誠はいつも、優しく笑ってくれるから。




誠、ごめんね……。



あたしができる事は、精一杯好きって気持ちを伝える事。
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