Distance‐マイナス5cm‐


「おはよう」


「のぞみ?びっくりした。随分早いのね」


あたしが声を掛けると、驚いたように振り向いた。


「早く目が覚めて。お父さんは昨日も帰ってないの?」


お母さんは何も言わず、寂しそうに微笑んだ。



あたしの家は三人家族だけど、お父さんは仕事が忙しいらしく、家に帰って来る事の方が少ない。

お父さんは三年前、昇進と一緒に、片道三時間は掛かる本社への異動が決まった。

まだまだローンの残るこの家を残して引っ越すわけにもいかず、単身赴任するかどうかで、お母さんとお父さんは話し合っていた。

結局、家から通う事に話はまとまったみたいだったけど、今じゃ週一帰るか帰らないかで、単身赴任とほとんど変わらない。

家から毎日通勤していたのは、初めの一年だけだった。


帰るのは深夜で、出て行くのは早朝。

そんな生活を一年も続けられた事は、確かに凄い事だけどね。
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