Distance‐マイナス5cm‐
「そうだのぞみ。お母さんクリスマスに展示会があるから、これからあまり帰って来れないと思うの」
「別にいつもの事だから気にしないよ」
「じゃあ家の事よろしくね」
そう言ってコーヒーを飲み干し、席を立った。
「……いってらっしゃい」
お母さんはあたしの見送りの言葉も聞かず、慌ただしく家を出て行った。
キッチンのテーブルには、いつもと同じサンドイッチが置いてあった。
お母さんは、毎朝これだけは作って家を出る。
てか唯一作れる物がサンドイッチって、どんな母親だよ。
家の外ではジュエリーなんか作ってるくせに。
お母さんはフリーのジュエリーデザイナー。
仕事内容はあたしにはよく分からないけど、展示会が近付くとしばらく家を空ける。
仕事モードの時のお母さんはいつも慌ただしいけど、よっぽどこの仕事が好きらしかった。
きっとお父さんを単身赴任させなかったのは、忙しいお母さんと少しでも顔を合わせる為だったんじゃないかな。
まぁ、今じゃ何の意味も無いけど。
取り敢えずあたしはしばらく一人らしい。
あたしはサンドイッチを頬張った。