Distance‐マイナス5cm‐

「……叶チャン、早川サンと何かあったの?」


誰にでも、優しい笑顔を向けていた中学時代のアイドル早川サンの、見た事もないような冷めた態度が気になり、覗き込むように叶チャンに尋ねた。



「さぁ、知らねぇ」


そう言った顔は本当に興味がないみたいで、振り返る訳でもなく、いつもの無表情だった。


「知らないって。元カノなのに」


「俺フラれたし」



叶チャンがフラれたの?


ずっと叶チャンがフったんだと思ってた。



「……そっか」

「つか腹減ったし、早く帰ろうぜ」


叶チャンはあたしの複雑な気持ちを無視して、さっきよりも早足になった。

それと同時にあたしの右手が軽くなる。

叶チャンが、あたしが持つスーパーの袋を奪ったからだ。


「ちょッ、待ってよ!それくらい持てるよ!」

あたしの持っていた荷物なんて本当に軽い物で、重い物は全て叶チャンが持ってくれていた。


思わず駆け足になる。


「お前すぐ転ぶし。泣かれたら飯が遅くなる」


叶チャンは二つの袋を右手に持ち替え、左手はあたしの手を握る。


な、何で何で!?

て、てて手手手!!


握られた手に力が入らない。

顔が熱くてポーッとする。

顔、上げられない。


「あ…ありがと……」


叶チャンにとったら何でもない事なんだろうけど、あたしはもう心臓バクバクで。


あたしは握られた手を見詰めるしかなくて、それを見詰める程心臓は高鳴り、足元はおぼつかなくなる。


その度に
「ほら、すぐつまづく」
って握られた手に更に力が入れられるんだけど……


ねぇ、分かってるの?

叶チャン。



それから家に着くまで、ずっと手は繋ぎっぱなしだった。
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