Distance‐マイナス5cm‐

「今日は帰んねーから。じゃ」


誠はそう言って、携帯を閉じた。




――今日は帰らないって。


と、泊まるって事だよね。


あたしは誠の顔を遠慮がちに見た。


「のんと話が終わったら、俺宮下ん家にでも泊まるから。だから、話し、ゆっくり聞かせて」


「え、泊まらないの?」


予想外の話に、驚きと、ちょっと残念な気持ちになった。


「いや、だって……なぁ」







「……泊まってって」



顔を赤くして俯く誠に、あたしは抱き着いた。


「の、のん?」


誠の心臓が、さっきのあたしみたいに早鐘を打ち始めたのが分かった。


あたしはそれを聞きながら続ける。


「美姫チャンって、スッゴク可愛いよね」


「……のんの方が可愛いだろ」


そう言って誠は、胸に抱き着くあたしの髪を撫でた。


「美姫チャン、可愛いよ……。可愛いし、あたしの知らない誠をいっぱい知ってる」


「美姫の知ってる俺なんて、誰でも知ってる俺だよ。ただ知り合ったのが早かっただけ」


「……うん」
< 184 / 481 >

この作品をシェア

pagetop