Distance‐マイナス5cm‐
「今日は帰んねーから。じゃ」
誠はそう言って、携帯を閉じた。
――今日は帰らないって。
と、泊まるって事だよね。
あたしは誠の顔を遠慮がちに見た。
「のんと話が終わったら、俺宮下ん家にでも泊まるから。だから、話し、ゆっくり聞かせて」
「え、泊まらないの?」
予想外の話に、驚きと、ちょっと残念な気持ちになった。
「いや、だって……なぁ」
「……泊まってって」
顔を赤くして俯く誠に、あたしは抱き着いた。
「の、のん?」
誠の心臓が、さっきのあたしみたいに早鐘を打ち始めたのが分かった。
あたしはそれを聞きながら続ける。
「美姫チャンって、スッゴク可愛いよね」
「……のんの方が可愛いだろ」
そう言って誠は、胸に抱き着くあたしの髪を撫でた。
「美姫チャン、可愛いよ……。可愛いし、あたしの知らない誠をいっぱい知ってる」
「美姫の知ってる俺なんて、誰でも知ってる俺だよ。ただ知り合ったのが早かっただけ」
「……うん」