Distance‐マイナス5cm‐
「五円じゃないわよ。五千円」
そう言って美姫は、右手をあたしに出した。
――は?
この娘は何を言ってるのかしら。
普通おさい銭って言ったら、五円とか十五円とか……まぁそのくらいじゃない?
「お前なぁ、人に五千円もねだるなよ。つか金をねだる時点でおかしい」
誠が呆れるように言うと、美姫は頬を膨らませた。
「あたし、マコと同じ高校行くんだから!絶対合格する為には、五千円くらいじゃないと聞いてもらえないじゃない」
その言葉に、あたしも誠も、アホみたいに固まった。
――て、同じ高校って!
マジでそれだけはやめて!
二年になったら、きっとあたし、胃潰瘍になってる気がする……。
「のぞみサン、よろしくね」
美姫は不敵に笑った。
クリスマスの時の幸せな気持ちが、嘘みたいにしぼんでいく。
あたしが知ってて美姫が知らない誠は、あたしと二人の時の誠か、高校での誠だけ。
ねぇ、美姫。
美姫の気持ち分かるよ。
でもさ、でも……。
あたしはこの不安に勝てるのかな。