Distance‐マイナス5cm‐
誠も、辛かったのかな。
誠の過去の事であたしが悩んでるって、気付いてたのかな。
いくら後悔しても変えられない過去に、誠も苦しんでたのかな。
顔を上げて、今日、初めて誠の顔をちゃんと見た。
その顔は今にも泣き出しそうで、あたしの胸を締め付けた。
「誠……」
あたしはそっと、手をのばした。
その手を優しく、温かい手が包んだ。
「のん、俺を信じて。今の俺を、信じて……」
――あぁ、あたし
誠にそう言ってもらいたかったんだ。
誠はあたしを裏切らない。
信じるって言葉の重みを、きっと誠は知っている。
あたしが勝手に信じる事は、ただの理想だけど
誠が信じてって言うなら、それは現実に変わる。
「……うん、信じるよ。誠を、信じる」
誠の言葉も、この手の温もりも、あたしは信じるから。
俯いた誠の目から、光るモノが落ちて、机を濡らしたような気がした。
でもあたしは、気付かないふりをした。