Distance‐マイナス5cm‐
久しぶりに、その声で名前を呼ばれた。
何でだろう。
何でこんなに安心してるんだ。
「のぞみ……?」
もう一度あたしの名前を呼ぶ声に、はッとした。
あたしは涙を思い切り拭い、叶チャンに笑顔を向けた後、急いで家の中に駆け込んだ。
分からない。
涙が溢れる。
心が満たされたような気がした。
「……何で」
こんな気持ち。
嫌だ。
考えない。
知らない。
知りたくない。
『恋』や『愛』や『情』なんて、今まで考えた事なんてなかったね。
ただ『好き』って気持ちしか知らなかった。
ううん、まだ、知らない。
あたしは、知れない。
あたしがそれを知る事になるのは、もっと先の事だから……。
次の日、叶チャンがあたしの教室に来ると、いきなり誠を殴った。
でも誠は殴り返したりはしなくて。
二人の喧嘩の原因なんて知らなかったけど、誠は、俺が悪いって言ってた。
二人がいつの間に話しなんてする仲になったのか疑問だったけど、誠ははぐらかした。