Distance‐マイナス5cm‐
「大丈夫」
大丈夫って。
「鍵あるから」
「――あ、何で……」
誠は制服のズボンから、おもむろに鍵を取り出し、鍵穴にそれをさした。
「センセーに頼み込んだ」
そう言って、悪戯っ子みたいな笑顔をあたしに向け、扉を開けた。
「わぁ……」
屋上には少しだけ雪が積もっていて、手摺りから覗く、遠くに見える町並みは、雪のお蔭でキラキラと光っていた。
――すごい。
綺麗……。
「のん、来て」
手を引かれ手摺りの近くまで来ると、その輝いている町並みが一望できた。
誠はジャケットをあたしに掛け、後ろから抱きしめてくれる。
ホットココアを包んだ両手よりも、背中の方がずっとあったかい。
「知ってた?ここから俺ん家とのんの家、見えるんだよ」
――あ、ホントだ……
ここから見るあたし達の家の距離は、全然離れてなんていなくて。
「こんなに近くに居たのに、今まで出逢わなかった事が悔しいな」
「……うん」
少し高い場所に立てば、あたし達の距離なんてこんなに近かったのに。
同じ高校に入らなきゃ、出逢わなかった。