Distance‐マイナス5cm‐
あぁ……
また、今日もか。
今日も、一階からは怒鳴り声が聞こえる。
こんな事するくらいなら、帰って来なきゃイイのに。
ヤダよ。
やめてよ。
もうやめてよ。
せっかく家族が揃ってるのに、どーしてこんな風になるの。
もう、やめて……
“♪♪♪〜♪♪…”
電話?
布団を被って耳を塞いだ時、枕元にある携帯が、着信を知らせた。
時計を見ると、夜中の2時だった。
電話の相手も見ないで、あたしは通話ボタンを押した。
両親の喧嘩の声から開放されるなら、相手は誰でも良かった。
「……もしもし?」
『……俺』
聞き慣れた声。
この声は、あの人。
「オレオレ詐欺なら間に合ってまーす」
『……切った方がイイ?』
「あぁッ、切らないで!叶チャンどーしたの?」
叶チャンから電話が掛かってきたのなんて、どれくらいぶりだろう。
もしかしたら、これが初めてかもしれない。