Distance‐マイナス5cm‐
あたしは駆け出していた。
玄関を出て、訳も分からずがむしゃらに走った。
雨季に入ったこの街は湿気でじめじめして、息を吸い込んでも吸い込んでも、酸素が足りなかった。
それでもあたしは走って、走って。
走っていなきゃ、壊れてしまいそうな気がした。
「うぅッ……うぇぇッうッ……うぁぁッ……」
呼吸もままならない程、溢れる鳴咽。
叫びたかった。
泣きたかった。
でも、泣いたらきっと、自分を保てなくなる。
「うぅぅッ……うッ」
それでも溢れた涙は止められなくて、あたしは足を止めた。
昔、よく遊んだ近所の公園。
そこのいっかくは死角になってて、奥まで入らないと見えない。
そこに、小さい頃の叶チャンの姿がダブった。
「お母さんが居なくなっちゃった」
そう言って泣いてた、叶チャンの姿。
あたしは自然に、叶チャンに電話を掛けていた。