Distance‐マイナス5cm‐



子供みたいに手を引かれ、あたしは叶チャンの家までやってきた。


叶チャンの家の前に立つのは久しぶりだ。


隣を見ればいつもあるのに、こうやって真正面から見るのは、あの日以来。





また手を引かれ家の中に入ると、リビングにはおじさんが居た。



「叶一、おかえり。のぞみチャンも一緒かぁ、いらっしゃい」


おじさんはソファーに座ってテレビを見ていた顔を、こちらに向けて言った。



「あぁ」


叶チャンは一言そう言って、あたしの手を引く。



「おじゃまします……」


あたしは静かにそう言って、手を引かれるまま階段を上った。





叶チャンの部屋に入るのは久しぶりだった。

中学生以来かな。


高校生になってからは、ご飯を作りに来ても部屋には入らなかった。



でもあんまり変わってない。


白と黒と紺の部屋。


テレビ、ベッド、コンポ、テーブル。



生活感のない部屋は、誠の部屋に少し似ていた。





「テキトーに座ってて。俺、ちょっと用あるから」



「えッ……」



あたしは一人になりたくなくて、叶チャンの上着の裾を掴んだ。
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