Distance‐マイナス5cm‐
ベッドの脇に置かれた鞄を手繰り寄せ、慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
寝起きの鼻声で、電話に出る。
『のん、寝てた?』
「え、あ、うん……」
あたしは横で寝ている叶チャンを気にして、小声になる。
『のんが寝坊なんて珍しいな』
「えッ、今何時?」
『8時23分』
今から行っても、完全に遅刻だ。
「誠、ごめん!先に行ってて」
『待ってるよ。どっちにしろ遅刻だし、一緒に行こう?』
それだけは無理だ。
叶チャンの家から出て来るの見られたら、絶対に変な風に思われる。
「ご、ごめん!支度とか凄い時間掛かっちゃうし、1時間以上掛かっちゃうし!だから先に行ってて!」
あたしは慌ててまくし立てた。
『……分かった』
誠は少しの沈黙のあと、静かにそう言って電話を切った。
変に思われちゃったかな。
でも、叶チャンの家から出てくわけにも行かないし。
「彼氏、大丈夫?」
手の中にある切られた携帯を見ていると、いきなり声を掛けられた。