Distance‐マイナス5cm‐
学校に着いたのは3限が始まる前で、叶チャンが来たのは昼休みだった。
わざと時間をずらして来てくれた事が、あたしには分かった。
授業には全然集中出来なくて、結夢の声も、美姫の声も、右から左へと抜けていった。
でもなぜか、叶チャンの声だけは聞こえたんだ。
それが、数学の解答をする声でも、英語の訳を読む声でも、あたしの耳は逃さなかった。
あたしに向けられた言葉じゃなくても……
「――ん……のん?」
「えッ?」
「今日、ずっとボーッとしてるな」
「あ……そんな事ないよ」
伏し目がちに答えるあたしに、誠は寂しそうに微笑んだ。
誠、ごめんね……
学校が終わり、誠のバイトの時間まで、あたし達は誠の部屋で時間を潰す事にしていた。
「俺、もうそろそろ行くから。家まで送ってく」
「……うん」
――家
今日、二人は居るのかな。
まだ帰りたくない。
でも、叶チャンに甘えてばかりいるのも良くない。
誠にも、叶チャンにも……