Distance‐マイナス5cm‐
部屋を出て、階段を下りる誠の背中を追う。
リビングに顔を出すと、誠ママが居た。
「あ、おじゃましました」
あたしはペコリと頭を下げた。
「のぞみチャン、ちょっと時間ない?たまには女同士で話しましょうよ」
突然の誠ママからの申し出。
えっと……時間はいくらでもあるんだけど
あたしはどーすればイイのかな。
なんか緊張しちゃうし。
「母さん、何話すんだよ」
誠は呆れた様にそう言って、すかさず助け舟を出してくれた。
「えぇー、お母さん、のぞみチャンともっと仲良くなりたいのよぉ。のぞみチャンはイイわよね♪」
彼氏のお母さんの、そんな半強制的なお願いを断れるわけもなく、あたしは「はい」と言って頷いていた。
「じゃあ誠、いってらっしゃい」
「気をつけてね……」
誠ママの笑顔とは対象的に、あたしの笑顔は少し引き攣っていたに違いない。
彼女に、自分の家から送り出される事に違和感があるのか、それとも何を話すのか心配しているのか、はたまたその両方か……
誠は複雑な顔をしてバイトに向かった。