Distance‐マイナス5cm‐
「あたしの存在を否定しないでッ……二人が愛し合ったから、あたしがいるんでしょ? それとも、あたしは生まれちゃいけない存在だったの……?」
「そんな事ないッ!!」
「お母さん……」
お母さんは、涙をボロボロ流して叫んだ。
こんなお母さん、初めて見たよ。
「そんなわけないじゃない……誰よりも大切な存在に、決まってるでしょ……」
お母さんは、そのまま泣き崩れた。
あたしはお母さんに寄り添った。
料理の苦手なお母さんが、毎朝サンドイッチを作ってくれていた有り難さを、知れた気がした。
「……お父さん、は?」
あたしは、何も言わず、ずっと俯いていたお父さんに顔を向ける。
「ねぇ、お父さんは……?」
漏れそうな鳴咽を、下唇をきつく噛んで押さえた。
それでもお父さんは、顔を上げてくれない。
「今日ッ、仕事、はッ……?」
鳴咽混じりにそう聞くと、お父さんはやっと顔を上げた。
その顔は、涙で濡れていた。
初めて見た、お父さんの涙。
「こんな日に、まともに仕事なんて出来なかった…」