Distance‐マイナス5cm‐
誠は、あたしが言うまで待っててくれたんだよね。
あたしに、心痛を悟られない様に。
何が正しいかなんて分からないけど、全部相手を想う気持ちから来てるんだよね。
“今は言えないけど、ちゃんと話すから”
そう言えば良かったね。
「誠、あたし達、ちょっとだけ成長したっぽい」
「え?」
「これからもよろしくね」
あたしを抱きしめる誠の腕を摺り抜けて、その腕を掴んで歩き出した。
「遅刻しちゃうよ〜」
誠は困惑しながらも、久しぶりの爽やかな笑顔をあたしに向けた。
でもあたしは考えていたんだ。
叶チャンには相談出来た理由……
喧嘩の声が丸聞こえだったからだよね。
あたしの嘘が下手だったからだよね。
傍に居て欲しいのは叶チャンだけって思ったのは、事情を知ってる人が叶チャンしか居なかったからだよね。
あたしのあの時の気持ちを理解してくれる人が、叶チャンだけだったから……だよね。
あたしは自分の気持ちに問い掛けた。
だけどやっぱり、答えは見えそうで見えなくて。
手を延ばすと、また、それは完全に消えていった。