Distance‐マイナス5cm‐


「俺、こんな風になれるなんて、去年の今頃は全く思ってなかった……」



水平線を眺めながら、誠は呟いた。


その顔は夕日の所為で、オレンジ色に染まっていた。



「自分がこんな風になれるなんて……。こんな気持ちになれるなんて、思ってなかった」




そう言った誠の顔は、切なそうであり、幸せそうであり――……




誠を、綺麗だと、愛しいと思った。



そう思った時、あたし達は自然に唇を合わせていた。



潮風が、あたし達の髪を揺らした。


潮の香りが、あたしの胸をときめかせた。


重なった唇から伝わる誠の体温に、幸せが溢れた。





「のん、見て」


唇が離れ、その代わりに誠の腕があたしの肩を抱き、水平線を指差した。


そこには、沈む、赤い太陽の光が海に反射していて、海と太陽がくっついているみたいだった。






「……綺麗」



本当に綺麗で、ただそれしか言葉に出来なかった。



「オメガ現象って言うんだ。太陽が海にぎりぎりまで近付いた時、Ω(オメガ)みたいに見えるからなんだって。あんまり見られないらしいよ」




これを、見せたかったんだね。
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